歌う船
アン・マキャフリー
嶋田洋一◎訳
創元SF文庫
1400円(+税)
このご本をお勧めする理由
宇宙を飛び交う船。それが、人格を持ち、意志を持ち、彼らもまた、世界を生きる独立した生命体。彼らはサイボーグです。もし、あなたが彼らに会ったら、どう対応するでしょうか? またはあなたがサイボーグになるなら、どんなことが待ち構えているでしょう。そんな未来の風景。
リアルのニュースなどでは、さまざまに宇宙開発が進んでいます。スペースX社は、火星を目指し、また、アマゾンのジェフ・ベゾスは、宇宙というフロンティアに挑むとき、金銭面や使用できるソースなどの制限により、障害となりうるとても高い敷居をぐっと下げて見せて、学生でも挑戦できるようにしたい、と言っています。いづれ、宇宙を一般人も行き来する時代が来るのだと思います。現代は、その黎明期なのではないでしょうか。そして、その未来はどんなものでしょう! 宇宙開発の夢を持っている人は、たぶん誰もが、SF小説をがっつり読んで、そこからインスピレーションをもらいました。あなたも、宇宙時代を生きています。その感性をSFの古典的名著「歌う船」を読んで、アップデートしませんか。
また、このご本を読んで、生きづらい人がよりよく生きるためのヒントがあるのかと考えたときに、それに値すると思われることにも言及します。(目次の大見出し4以降の内容です)。
主人公の女の子ヘルヴァは、体の不自由に生まれました。
生命すら危うい。しかし彼女には、〈頭脳船〉になる素質があった。身体は金属の外殻に収められ、宇宙船にリンクする。彼女は〈中央諸世界〉の宇宙船〈XH-834〉として生まれ変わった。〈頭脳船〉には、パートナーとなる生身の〈筋肉〉と呼ばれる士官と任務を共にする。最初の士官を愛したことが、その後のヘルヴァの心を悲痛なものとする。あまりに愛したから。
あらすじ1
〈XH-834〉のヘルヴァは、初の任務で〈筋肉〉のジェナンとパートナーを組みます。
船には彼女の体の入った外郭を収納しているところがあるのだけど、ジェナンは必ずそちらを向いてヘルヴァと話すのです。それが実力派揃いの士官たちの中から彼女がジェナンを選んだ理由でした。
歌が得意な男性で、ヘルヴァに歌の才能を見出します。彼女はことあるごとに歌うようになるのだ。
任務は宇宙空間を目的の星系、星雲を目指して進む。長い時間ですから、性格が合っていないと苦痛ですよね。その点、二人はウマがあったようです。いつか2人で遥か遠い馬頭星雲に行きたい、と話したりしてました。

馬頭星雲はとても遠い。
そこに一緒に行こうって思うこと、
意味深いですね。
あらすじ2
一つの星系で、恒星(太陽)が不安定化していました。熱が上昇しつつあるのです。
クロエは、その星系の最近入植が始まった惑星。宗教を熱心に信仰する素朴な人たちの星。たどり着いた二人。被害の及ばないところへ住民を避難させる!!
でも、ジェナンの言葉に、教祖は首を縦に振りません。彼女は避難惑星をソドム(聖書のいう悪徳の町)と呼び、そこに行くよりは殉教を選ぼうとするのです。でも他の信者たちは怯えていました。気温がぐんぐん上がってきているのです。一人がヘルヴァの船内に入ると雪崩のようにみんな押し寄せた。助けられる!!
しかし人数が多い。船長とも呼べるジェナンは、壁の薄いエアロック内に宇宙服を着て、場所を信者たちに明け渡しました。時間がかかりすぎ、もう恒星の熱は耐え難かった。ジェナンは熱で生命を奪われるのです……。

狂信というのは、
悲劇しか生みませんよね……。
教祖がだだをこねなければ
ジェナンは生きられたかもしれないのです。
あらすじ3
それからの彼女はジェナンを失ったトラウマとの対決の日々ともいえます。ジェナンとは比べようもない愚かな〈筋肉〉とパートナーをくんだり、心の病に苦しむしかし人間的には好感のもてる〈筋肉〉と任務をこなしたりします。でもいつもジェナンのことを忘れられないのです。
パロラン・ナイアル。〈中央諸世界〉で高い地位にある男性で、プレイボーイ、背は低い。ヘルヴァは、彼を通して〈中央諸世界〉に関わってきた。そして、彼はヘルヴァに一種異常な愛を持っているらしい!? ただ、ヘルヴァも惹かれていた。彼女に対する彼の言動がとても気を惹くのだ。船の姿のサイボーグである彼女を、一人の女性、として扱ってくれる。
そのころ、ある高次の存在からもたらされたテクノロジーにより、莫大なエネルギーを生み出せるCTエンジンが試作された。そのテストをしてほしいと、ヘルヴァに依頼が来る。
「任務に着かせたいなら私の言う人を〈筋肉〉にして」
ほんらい、管理職のナイアルを愛ゆえに〈筋肉〉にしてしまいます!! でも、それで、騒動がないわけない!! すましやさんのナイアルがヘルヴァを思うゆえにとった行動とは!?

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わかります!!
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さて、自分を卑下せず相手に対するには。
「歌う船」は、一人の男を愛したヘルヴァが、その喪失に悩み、もう一人の男により、心を回復させる物語です。彼女は、宇宙船であり体が金属に収められているために、「外殻人」とも言われます。しかし、感情や意思は生身の人間と変わりません。嬉しいことも悲しいことも感じます。
彼女はうまくやらなければならなかった。〈中央諸世界〉のお偉方と。任務の地での人びとたちと。〈筋肉〉と。同じ立場の「外殻人」と。この物語はそんな人たちに対するヘルヴァの「対話」に注目して読んでみてほしいです。ヘルヴァは、相手が彼女に軽蔑を持ったり傲慢になってしまったりするきっかけを与えるコミュニケーションがほとんどない。
たとえばあなたは独り言が多かったりしますか?
ぼくは思うのですが、独り言が多いのは、自分の頭の中に突然のように現れた映像や言葉に恐れたときではないでしょうか。大袈裟に言えば、それはトラウマに直面しそうになったのです。そのとき、とにかく物理的に何かを言ってみせて、「それ」をみないようにする。そして、その言葉は、もしかしたら、どこかあなたのすがるもの、依存する対象に呼びかけるものではないですか? つまり独り言を言っているときは、心が不安定なのです。これを、やめるには心を強くする? それよりも、独り言を言わないように気をつける、ほうがいいと思われます。何度も訓練する必要はあると思います。
言動により精神は強くまたは弱く育ちます。
だから、もしあなたが、相手との会話で「弱い立場になってしまう」としたら、このご本を読んで「対等に接する」その会話のリズムを考えてみてほしいです!! また、そのときの彼女の心理の動きも何かしら参考になるかもしれません。実践できるのなら(ヘルヴァは手厳しいところもあります。それを直接真似するのでなく、相手を無条件には上位に位置させないという考え方を見出してみましょう)、あなたの心は少しづつでも強くなっていくと思います。勇気を持ってくださいね!!
ピックアップ(心理の動きとして)
(頭脳船(ヘルヴァ)に対して、頭の硬い〈筋肉〉テロンは発言した。)
「いずれはこんな便宜的な方法は必要なくなるだろう。自動操縦が完全なものになれば、人間の脳は必要なくなる」
「人間は必要よ」
「ああ、そう、人間ね。人間はどうしても過ちを犯しやすい。多くのプレッシャーにさらされる、偉大な任務に対して脆弱すぎる存在だ」
ヘルヴァは一言もコメントしなかった。(…)彼女が急に気づいたのは、そうした議論の基盤に、残念ながら、信頼性に関する彼の独特な理論を裏付けるような事案があるという事実だった。
「歌う船」本文より抜粋
()内アリサカ、文

自分とはちがう意見の相手に対して、
「おかしなことを言ってるけれど、
彼の中には確信にたる何かがあるのだ」
と、洞察できるのはすごいですね!!
そしてそんな人には突っかかったりせず、
何も言わないでおくという、
スタンスも素晴らしいと思います!!