愛する人へ、くちびるに。そんな清々しい記念が、人生にあることが。あなたの美しいものがたりはあなたじしんが紡がなくてはいけない。(「アーサー王ここに眠る」 フィリップ・リーヴ 井辻朱美訳 創元推理文庫)

小説

アーサー王  ここに眠る
フィリップ・リーヴ
井辻朱美  役
創元推理文庫

あなたには、自身で紡ぐ物語があるでしょうか?

人は、誰かから、持ち上げてもらうことで、人生が輝くのでしょうか?

その者の内から出てくる何かがなければ、到底無理では。

この物語は、吟遊詩人に歌われる英雄アーサー王と、彼とほとんど接点のない名もなき少女グウィナ、二人の生き様が、コンストラストに語られます。

あらすじ

吟遊詩人ミルディンは、アーサーの英雄譚をうたう。

彼は、伝説のために、古の神「湖の精」より、剣を授かる必要があった。

ミルディンに拾われた少女グウィナは、「湖の精」としての、その役を任される。

なぜ、伝説を作る必要が? アーサーが、ブリテン島の王となるためだ。物語の力は剣や権力よりも強いと、ミルディンは考えるのだ。この伝説の語りにより、アーサーは王へと民衆から後押しされるはず。

グウィナは、「役」が終わると見放されると思っていた。けれども、ミルディンは彼女を男の子として、そばにおいた。

それからグウィナの冒険が始まる! この時代に、女性であることはほとんど自由がないことだった。その制約を無視して、彼はエセ聖者の嘘を見破ったり、戦闘に出たりした。

しかし男の子としていつまでもいれなかった。顔つきや体つき、声、や身体的なものが成長とともに誤魔化せなくなる。

ミルディンはグウィンをアーサーの妻の侍女という立場においた。

優しい奥方。しかし、彼女はアーサーに対する裏切りをする。

女の子としての冒険の日々も終わりを告げた。

同時に、アーサー麾下の将でありまた彼の義兄が、戦争に派遣された。グウィナの愛する人も戦士として参加する。彼は戦えるほど強くない!!

グウィナは、愛しい人を守るために、ふたたび、男の子として、その戦争に参加しようと決めた……。

グウィナは、ミルディンのように、物語を語るようになります。

彼女は、多くの人に英雄の物語を紡ぎ、また、自身の物語を生きることもしました。

アーサーは、この物語ではブリテンの王になっていません。彼は、あるとき征服した土地を持つことで満足してしまったのです。

そして、

彼が、彼自身の物語を作ることをやめてしまった。

ミルディンが、一生懸命民衆にアーサーの伝説を流布するのだけれども。およそ、アーサー自身がそれを活かさない。

グウィナは、いつでも物語を生きていました。男の子(戦士)としての冒険、女の子(侍女)としての冒険、そして、大好きな人に、覚悟のキスもした。

これからも素晴らしい物語を彼女は、誰からの口ではなく、自身が体現していくのだと思います。そうすることで、いつか、逆説的に、誰かが彼女の物語を語るかもしれません。

※この小説は、円卓の騎士伝説です。ただ、アーサー王以外の登場人物の名前が一般的ではありません。どの人物が、どの英雄なのかを踏まえておかれたいならば、読む準備として、巻末の「著者後書き」に書かれてあるので、そこをご覧になるのがいいと思います。

語りのミニシアター

グウィナは、あるとき、気づきます。
戦いを物語のような栄光に満ちたものと思ってはならないと。
そこには、『敗北や苦痛や恐怖』があるのだと。

 
これは、人生の要素でもありますね。

誰でも、
物語から卒業するときが、くるのよ。

でも、彼女は、物語がただ、
素晴らしいけれども
しょせんは虚構だとは考えていなかったのでは。
 
彼女を支えた吟遊詩人ミルディンは、
物語は世界を動かすと思っていました。
 
その弟子の彼女も、そんな物語の、
生きていく力をくれるなにかを知っていたのかもしれません。

なるほどね。
だから、彼女は輝いていたのね。
 
アーサーは、まるで力はあるけれども凡な王としてあったけれども、
グウィナの生きざまは、すべてが、すばらしかったわ。

生きる時間のほとんどは、凡なものです。
光が見たいなら、
そのような物語を自らで生み出すことが必要なのかもしれませんね。

ごくふつうの日常が光るときがあるけれども、
あれもじしんで物語ることなのかもね!!

管理人
アリサカ・ユキ

ぼくはずいぶん長い間とても弱かった。勝手な自己主張の上手い人たちに、いろんなやり方でいいように扱われていました。

物語からほんとうの強さというものを知りました。それは、なにかをわかること、そして、それへのやさしい想像力で得ることもできる、ということ。ぼくは卑怯な人に抵抗できるようになった。優しい人の味方になれるようがんばれるようになった。

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