忘れられた巨人
カズオ・イシグロ
土屋政雄=訳
早川書房
高徳な人でもぼくたちと同じ人間であります。
ここには、気高い人たちが何人か登場します。彼らは、意思もまたは剣の腕も強靭です。そのような飛び抜けた才能があり、そして人格も申し分ありません。
けれども、彼らは過去の出来事にとらわれています。その人(民族)のある時の歴史。それは、やり直しが効かないし、彼らはそのことで自らを変えるきっかけも見失っています。その過去による痛みと憎しみを持っているのです。
あらすじ 記憶のことがテーマに据えられたご作品です。
さて、主人公は老夫婦であり、怪物に魅入られた少年と彼を導こうとする若い戦士がいます。
夫婦は、記憶がとても曖昧。彼らだけではありません。この国に住むすべての人が、何かをすぐに忘れます。なぜなのでしょうか? そして老婦人は、忘れることが繋がりを失うこととも考えます。だから、記憶の忘却に対抗するかのように、忘れかけている息子の住む村へ、老夫婦は旅立つことを決意するのです。
なぜ、そんなにも記憶に霧がかかるの? 理由はあった。ある丘の洞窟に住む竜の息が、それをしているのだと。
その竜を屠ろうとする騎士がいます。何十年も前に君主であるアーサー王から、その命を受けた老ガウェインです。なぜ、彼は、いまだに竜を殺せないのでしょう? 少年を連れた戦士が、竜を倒すべきというとき、騎士は首を振るのです。そして、彼は竜を仕留めるのは自分だと言い張る。そこにはある謎があります。
総括。記憶によって人は感情を動かされることもあります。忘れられないことが、ぼくたちをつくる一つの要因かもしれません。
感情。
喜び、哀しみ、尊敬、軽蔑、怒り、憎しみ……。
そのようなものにはげしく囚われ続ければ、ぼくたちは生き難いでしょう。
人間にとって記憶とはどういうものか。悪いものならば、感情を振り回される。そのことに対処する最善の方法を、登場人物たちはそれぞれの方法で確立しています。しかしその方法そのものが逆に彼らを縛る何かを作っているようにも見えます。
そして、お互いの絆を信頼するために老夫婦の記憶の行き着いた先とは……。
円卓の騎士伝説の後の時代を思わせる舞台に竜退治を通低音として織りなされる壮大な物語!! 退屈なところは一つもありません!! 終わるまで(終わった後も)気のおけないご作品です!!
あなたは、記憶がどのような力を持つのか(またはどのように植えつけられるか)、この物語を読むことにより、それについて何かを思うかもしれません!!
《キーワード》
「悪い記憶も取り戻します」
「悪い記憶も恐れないということですか、ご婦人」
「何を恐れることがありましょう、神父さま。
アクセルとわたしの心の中には、お互いへの思いがあります。
それがあれば、霧に何が隠されていても、
今日からの道に危険などありません。幸せな結末が待っているお話と同じです」
「忘れられた巨人」より抜粋
夫人は、
夫と自分の間にある愛を一途に信じているように見えます。
人に対して、
なんでも喋るのがよいと言うことがないように、
記憶もお互いに
触れないようにしてるものがあるとは思うのですが。
夫人はさ、ちょっと、つよめの理想主義者?
ひとって、何もかもを曝け出すと、
出し切ったはずなのに、なにか、
消化し得ないものを抱えることになると言うかさ。
記憶が思い出されたときの二人それぞれの心情は……?
そのことを考えたとき、ぼくは、
結末の意味がわかったような気がいたしました!!
それは、ぜひ、あなたが、読んで、
あなたの答えを出してみてください!!
※この記事は、あるSNSに投稿していたものの大幅改訂版です。そのSNSから、該当記事は削除致しております。