熊と小夜鳴鳥 冬の王1
キャサリン・アーデン
金原瑞人・野沢佳織 訳
創元推理文庫
勇気のお話、これが、この物語です。
主人公のワーシャをはじめ、彼女の父、兄、乳母、それぞれに、強いものがあり、この物語を読むと、気高く強く生きたい! と思うし、もしかしたら、彼女たちの生き様に涙を流すかもしれません。
あらすじ
ワーシャの住む辺境は、精霊に守られています。住人は、国教を信じていますが、同時にその精霊たちに敬意と捧げ物を送っていました。それは、異端でありましたが、村はお陰で平和なのです。
あるとき、新しい神父が来ます。彼は、村人に正しい信仰を求めました。才能豊かな男性で、人を魅了し操る能力と美しい外見、そしてイコンを作る芸術家の感性も持っています。
彼のはたらきにより、村人は精霊への信仰をやめていきます。
精霊たちは恐れていました。自分たちへの信仰がなくなることで、力が弱まることを。それは、ある破壊的なものから支配されることになるからです。
そして、村のそばの森で、『熊』が目覚めます。命を食らうものです。そのせいで、村は極寒の地と化し、寒さと飢えに人びとは苦しみます。命を落とす者も出てきます。
ワーシャは『熊』が欲しがるものを持っています。彼に力を与える何かです。だから、狙われる。
ところで、冬の王も『熊』の力を恐れていました。王は、ワーシャに安全な家にいるように言います。しかし、ワーシャは戦うことに決めるのです。愛している家族や村の人たちを守るため。『熊』と戦う何の力も持っていないにも関わらず……。
ワーシャは何ものにも縛られない少女です。
自由に思うように、けれども誰にでも思いやりを持ち、生きています。それは、太陽の輝きのような人生です。彼女の父親は、彼女の結婚を決めたとき、「妻として夫や家に尽くす縛られた人生(妻となる誰もがそういうことになる時代のお話です)」をまざまざと想像して、いたたまれない気持ちになりました。他の娘が嫁いだとき、それは幸福になることだと思えたのに。
その自由さは、精神の強さです。
神父。自らの力(外見や声の魅力、芸術をする能力)を確認することに何よりも価値を見ている新しく村に来た彼でさえ、彼女を「欲しい」と思うほどに、ワーシャは、人を惹きつけるのです。決して、美人ではありません。そして、また、その神父の人望と権力を前にして、あなたは間違っている、と言えるほどの凛とした気高さすら持っています。
その強さが、ワーシャが「女性」であるがゆえに、よく思われない。物語はそんな理不尽を吹き飛ばそうとする彼女の成長譚として進んでいきます。さまざまなできごとに何度も挫けて、悲しみ、絶望し、それでも立ち上がるワーシャ。
そして、あなたがこのご本を読むなら、彼女のそんな勇気は、彼女の父親や兄や乳母が育んだものだと気づきます。何よりもワーシャ自身が姿を見ることすら叶わなかった母親が、その初めにそれを与えたのです。
彼女たちの勇気を、ぜひ、ご作品を読んで、感じてください!
《ささる言葉》
「あれはマリーナが最後に産んだ子だ」ピョートルはいった。「わたしの娘だ。男は自分以外の命を身代わりに差し出したりしない。わが子の命ならなおさらだ」
(熊と小夜鳴鳥より引用)

そうです! 世の競争社会がどんなに過酷でも、
自分の立場をよくしようとして
弱いものを利用したり
しないでください(男女関係なくですけれど)!
冬の王2 「塔の少女」 コンテンツ こちら
冬の王3 「魔女の冬」 コンテンツ こちら