「塔の少女 冬の魔女2」生きることに制約をかけられるとき。強く生きることを、その少女は決意する。(著者 キャサリン・アーデン 創元推理文庫)

小説

塔の少女 冬の王2
キャサリン・アーデン
金原瑞人・野沢佳織 訳
創元推理文庫

女性と男性に何かしらの差があるとしたら、

それは、身体的な相違はあるでしょう。けれどもそれだけです。人間的な心根や強さを持つことに、男女差はありません。しかし、社会はそれをなかなか、当たり前のこと、にしない……。そして、そのような差別としての性差というものを跳ね除けようとするのが、このご本の主人公ワーシャです。

さて、それを語る、著者キャサリン・アーデンさんの冬の王シリーズ第二巻です。

あらすじ

昔語りは伝えます。雪から作られた少女がいた。ある老夫婦の元で生活をする。恋をする! 羊飼いの少年へ。しかし、彼女を作ったものは言う。お前は人間ではないのだ、誰かを愛したのならその命を失くす。『陰からは出ていけない』。

ワーシャは旅をしています。ある村が、盗賊に襲われたといいます。娘たちが攫われたのだと。ワーシャは、持ち前の義憤を発揮です。盗賊たちのねぐらを見つけて、娘たちを助けるのでした。

けれども、その盗賊たちに追いかけられます。なんとか撒くのだけど、道に迷ってしまう。娘たちをのせた馬を駆り、雪の積もったとても寒い夜を突き抜けます。がんばってソロヴェイ。大事な小夜泣鳥・・・・・・、馬のソロヴェイは、走る。やがて、大きな街の門までたどり着く。

そこは、モスクワ。太公ドミトリーが治める大都市。彼に、ワーシャは気に入られてしまう。男装していたのだから、そういう意味ではないのですが。しかし、大公に嘘は危険だった。権力者を騙すことは。

モスクワの太公には右腕とも呼べる男がいた。アレクサンドル・ペレスヴェート(光をもたらす者)。元々の名前はサーシャであり、修道士になっていたワーシャのお兄さんの一人です。彼は、妹に会えたことを嬉しく思いますが、また、彼女がトラブルメイカーなのも知っています。

「男性三人」が先頭に立って、盗賊狩りを始めました。何より、いくつもの村が、神出鬼没の盗賊に襲われていたのだから。そして、戦闘が起こり、それが終わる頃には、ワーシャは英雄でした。

しかし、彼、は実は、彼女、であることがばれてしまいます。太公の怒り。彼の権力への挑戦となっていたのです。それは兄のサーシャや同じくモスクワの有力者と結婚していた姉のオリガたちの身も危うくした・・・・・・。

魔女裁判にかけられる危機。ワーシャは、これまでにも、冬の王に何度も助けられていました。今度も彼が力付けてくれるのでしょうか。しかし、彼は死神です。昔語りの言うとおり、『陰からは出ていけない』のです。だから、自分は利用されていた・・・・・・そう思ったワーシャは、彼への恋心をどうするのでしょうか!

そして、盗賊が村を襲うのはある計画の部分だったのだと少女は気づく。狙われたのは太公ドミトリー。囚われのワーシャは、黒幕である不死の魔術師と戦うことを決意します。

総括。自分のできることを最大限やった。守りたい人たちのために精一杯。けれどもそれを、守った人から理解されないことがあります。

ワーシャもそのような状況に陥ります。騒動のすべてが終わった時、彼女は泣くのです。それは、誰かへの思いと自分の行動が、きれいに相手に届かないことのかなしさだったのかもしれません。けれども最後に彼女の姉はワーシャに言うでしょう。

『あなた(…)を愛してるわ。いままでどおり。これからもずっと』

少女の気高さと心の強さ、そして、純真な愛を歌う物語、第二幕。ぜひお読みください。

《ささる言葉》

「さあ、きけ、これがわたしの答えだ。おとぎ話を信じてはいけない。いいか、一度しか言わないぞ。この世界では、おまえの望みなど、みんなどうだっていいのだ」
ワーシャは唇を固く結んだ。「姉さんも同じことをいった。でも、あなたは? やはり、わたしの望みなんてどうだっていいの?」

「塔の少女 冬の王2」より抜粋

誰にだって、信じたい人、そして、自分のことを信じて欲しい人がいますよね!!

冬の王1 「熊と小夜鳴鳥」 コンテンツ こちら

冬の王3 「魔女の冬」 コンテンツ こちら

管理人
アリサカ・ユキ

ぼくはずいぶん長い間とても弱かった。勝手な自己主張の上手い人たちに、いろんなやり方でいいように扱われていました。

物語からほんとうの強さというものを知りました。それは、なにかをわかること、そして、それへのやさしい想像力で得ることもできる、ということ。ぼくは卑怯な人に抵抗できるようになった。優しい人の味方になれるようがんばれるようになった。

あなたを翔けさせる素晴らしい物語たちを伝えたいです。

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